「きょう、たまごめしば食うた」。近所のケンちゃんが、くちの周りに卵の黄身をつけて自慢げだ。 「母ちゃん、うちもたまごめしばつくって」と言うと、「ぜいたくば言うぎいかん」と言いながらも、母ちゃんは作ってくれた。 大きなドンブリいっぱいのご飯に卵が一個。いくら混ぜてもドンブリの底や隅までは卵が回らない。しゅうゆをたっぷりかけて、どうやらたまごめしらしくなった。それを、兄弟全員で食べる。「おいも、きょうたまごめしば食うたぞ」と言いたいために、無理に黄身を口の周りにつけて遊びに行く。 卵は貴重品だった。病気にでもならなければ、一人で卵一個なんてなかなか食べられない。家の周りに放し飼いにしたニワトリガ、卵を産むのを待ちかねたようにして取り上げる。小屋の隅のワラの中に、まとまった数の卵を見つけたときなどは大喜びだ。「体の調子はドガンカンタ」「ナーイ、ぼちぼち」 「あんまい無理せんで卵どん食うて滋養(じよう)つけせんば」 「ナーイ、ぜいたくかばってん、卵ば食いよっばんた」 「そいがよか、そいがよか」
・・ふるさとあのころ・・著者:相浦 寛
「たまごめし」
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